前からこの方の文体はすごいと色んな処で目にしていてとても気になっていました。
本屋で「日蝕」を探し内容をちらりと覗き見てみると、たしかに物凄い。
しかし裏の粗筋を読んでちと私の嗜好では無さそうで二の足を踏む。
けれども矢張りこの方の作品は一度読んでみたい、と思い手に取ったのがこの本でした。
一体どんな書物を読んで暮らしてきたらこんな文が書けるようになるんだろう。
明治・大正時代の本にも無いような漢字表記や晦渋な文章は、けれどそれだけでひとつの世界観をより完璧に構築するのに成功していて、この方の巧みさが窺い知れます。
(「頗る〜」というのがやたらに出てくるので少し気になったりしましたが)
現実界と乖離していく物語の展開に熱に浮かされ続けているかのような妙な浮遊感を味わい、物語の結末には幾分腑に落ちないこともあったり、消化不良な気分にもさせられましたが、
読み終わって、この本の解説を読み、少し読み返してみると、「なるほどなぁ」と思いました。
この本を読んでいる間、なにかどこかで味わった事のあるような、ささやかな既視感を憶えていたのですが、
なるほど、この感覚は神話や御伽噺、言い伝えや昔話、(あるいは都市伝説のような)ある一定の法則、というか「流れ」に則った展開を見せているのですね。
そう思うと結末のあの二人の昇華がなんだかすごくすっきりしたものに思えてきました。
解説の通り、うん「現代の神話」ですね。